4/20/2016

3ヶ月経過

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オーストラリアに来て、いつの間にか3ヶ月が経過した。当初予定していた計画は大幅に狂い、結局僕は三ヶ月の全てをゴールドコーストで過ごしてしまった。
海外に出たところで、別に何も変わりはしなかった。そこにはいつもどおりのパッとしない日常があり、退屈と刺激があり、不足と充足があり、自己肯定と否定があり、何の意味も無い空間と景色が、ただ広がっていた。

思えば僕は、多くの事を求めすぎていたのかもしれない。物語の様な毎日を求めていたし、情熱が煮えたぎる様な熱い日々を求めていた。しかし現実には、同じ様にそれらを求める何も変わらない自分がそこにいるだけだった。

時間は容赦なく流れていき、周りの全てが当たり前になっていき、変わる事のない自分がそこにいて、、

どんな三ヶ月だったのかと誰かに聞かれたら、別にどうってことなかった、そう答えるしかないだろう。

’自分探しをしに海外に行く’

親しい友人にそう言って出て来たが、そんなモノは最初から見つかっていた。この空虚で、満たされず、精神世界に囚われ、不安定で、悲劇のヒーローを気取ってしまう奴、今までもずっと一緒にいたこいつが、残念ながら僕が探していた正真正銘の自分なのだ。

所謂世間で言うイメージの「自分探し」は完全に終わった。それに気づけた事は、虚しくも在り、同時に悪く無い気分だ。

何も無い三ヶ月だったが、あのまま日本で過ごしていたら、、そう考えると悪くはなかったとも思える。東京のアパートの部屋で自分の世界に閉じこもっていた時に比べれば、多くの心の揺れを味わう事も出来た。興奮、失望、希望、絶望、優越感と劣等感、自尊心と憧れ、まぁとにかく、心は留まる事無く波打ち揺れていた。

もちろんそんな風に考えながらただ鬱々と毎日を過ごしていただけではなく、楽しい事もあった。僕を友達と呼んでくれる奴らにも出会えた。下らない会話、ドラッグとガンジャ、初めてのレイブ、ちょっとした揉め事も。
今までは、価値のある会話や、何か意味の在る事をせず他人と過ごす時間は、浪費であり、逃げだと思っていたが、もしかしたら、そんな何の意味も無い事が、幸せなのかもしれないと思えた。

まさか自分がこんな事を書くとは思っていなかったが、ゴールドコーストでの生活を思い出して素直に真っ先に浮かんでくるのは、友達と共有した楽しい時間の事ばかりだ。
金、成功、自己実現、ステータス、経験と成長、存在の証明、人生のテーマは色々在るだろうが、実はそんな事よりも、意味の無い楽しい時間の中に真理はあるのかも知れない。

僕と多くの時間を過ごしてくれた友達達、ありがとう。
これからも僕は今までと変わらず、探求を続けて、時に落ち込んで、まぁとにかくナルシストにコレを続けて行くんだろうけど、皆と過ごした楽しい時間と、そこに居た素直でありのままの自分は、これからの僕を支えてくれるだろう。

新しい街に行く準備をしながら、そんな事を考えた。


ゴールドコースト編、終わり。






おもいどおり

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夜中の11時頃、僕は家の近くのペリーパークを煙草を吸いながら散歩していた。川沿いのレストランはまだ営業していて、紫や黄緑の怪しい照明が店内から漏れ、静かに波打っている川の水面に色を写していた。公園のベンチに警察が集まって、夜のパトロールの打ち合わせをしている。日本の警察よりもセンスが良い制服を着て、でかい拳銃を持って、まるで夜の街の支配者みたいな顔をしている。別に何をされた訳でもしている訳でもないのに、警察に会うと嫌な気分になる。

それはともかく、僕は気分が良かった。仕事の帰りに仕事先の社長と飲みに出かけ褒めちぎられていたからだ。

’今まで何人もワーホリの奴を使ってきたけど、お前は普通のワーホリで来てる奴とは違う。自分を持ってるし、変につるまないし、珍しいタイプだと思う。そういうのは大事にしていったほうが良い’

そんな事を言われた。変わっている、人と違う、自分を持っている。この自我が敏感に反応する言葉だ。そうだ!俺は人と違うんだ!お前らとは、、チガウンダ!

他人にこういう風に評価されたい、僕がそう思ったとおりに評価されて居た事が嬉しかった。酒の酔いも手伝って、僕は有頂天になっていた。

公園での散歩を終えて、いつもより軽い足取りで家に帰った。シェアメイト達にいつもより高いテンションで声をかけ、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びた。俺は大丈夫なんだ。俺は普通じゃないんだ。頭の中で何度も言い返して、悦に浸っていた。鏡に映る顔は心なしか自信に満ちていた。

シャワーを終えるとビールを開けて、キングサイズのジョイントを一本巻いた。今日は最高の気分で寝れそうだ。ベランダに出て、近所迷惑も顧みずでかい音量でサイケをかけてジョイントに火を着けた。いい気分に浸りながら微睡んでいると、ドアが開き、ケントがベランダに出て来た。ケントはこの家で僕以外に唯一ガンジャを吸う奴で、僕より6歳年下のあいつを、僕は後輩として可愛がっていた。

「お疲れっす!チルってるんすか?」

勢い良くベランダに出て来たケントに、僕は返事はせずジョイントを渡した。ケントも酒に酔っているらしかった。僕らはもうしばらく一緒に住んでいるし、あいつが年下なこともあって僕は一切気を使わなくなっていたから、無理に話題を振ったり話をしたりする事もせずに、音楽の合間にぽつり、ぽつりと話しかけてくる時に適当に相づちを打っていた。ケントの話の内容よりも、今日褒められた事がやはり僕の心を支配していた。

ジョイントを吸い終わって、音楽にも飽きて来た頃、ケントがこんな事を言い出した。
「僕ね、人を見る目は自信あるんですよ。アホだと思われてると思うんですけど、この家の奴らの事もよく見てますよ。大体当たってると思うんですよね。」

特に話す事も無かったし、自分はどう思われているのか、気になった僕はケントにこのシェアハウスの住人達がどんな人間だと思うのか話す様に促した。
ケントは得意気に、彼なりの人間分析を順番に話した。彼が話した他の住人達の分析が当たっているのかは僕は分からなかった。思ったのは、基本否定的な評価が多く、最後に褒めて納めているな、という事だけだった。僕が他人に興味が無いからだろうか?いや、僕はこの時、僕の評価を早く聞きたくて他の奴の話は聞き流していたんだ。どこまでも「自分」が気になって仕方がないんだ。

「じゃあ、エソン君いきましょうか?」

僕以外の住人達の分析が終わり、僕の番になった。随分長い事ベランダに出ていたせいで、体が少し冷えだしていた。

”遠慮しなくていいから、客観的に思う事を全部言えよ”

本当の事が聞きたい、という思いと、年上として後輩に器のでかい人間だと思わせたい思いが僕にこう言わせた。

じゃあ遠慮なく、そう言って話しだしたケントの口から出た言葉は、脆い僕の自信とプライドを打ち砕くには十分なモノだった。あいつから見た僕は、頑固で、傲慢で、自己中心的、イライラしやすくて、他人の事を考えておらず、他の人間から見たらどうだっていい様な知識をひけらかし自分を飾っている、年齢にそぐわない人として薄っぺらい人間、という事だった。僕は、そっか、とだけ言うのが精一杯だった。
一通り話し終わるとケントは部屋に帰って行った。僕は煙草に火を着けて、椅子の上で膝を抱えた。頭が重く、体が椅子にくっついている様に感じた。

”今まであいつはそんな風に思ってお前と接してたんだよ。二ヶ月も一緒に生活している人間の評価は正確なはずだ。どれだけ格好をつけたって、どれだけ自分を偽ろうとしたって、お前はどうしようもない小さな人間なんだ、自信なんてもてるはずもないクズなんだよ。”

僕が僕をさらに追い込む。久しぶりにこんな自己嫌悪を味わった。人生が恐ろしく感じた。生きている事が、恥ずかしくて、少し前までちょっと褒められて有頂天になっていた自分が滑稽で、まるでピエロの様だと思った。6歳も年下の人間に言われた言葉で、こんなにも落ち込んでいる自分も受け入れられなかった。反論も出来ず、笑う事も出来ず、ただ落ち込んでいる弱い自分、今まで僕は僕なりに懸命にやってきたつもりだったが、そのどれもが意味の無い事だったのだ。

そしてまた、そんな僕を見ているもう一人の僕は、意外にも笑っていた。
分かっていたんだ。なぜこうなるのかを。あまりにも正確で、シンプルで、、、、
’信じる’事すら馬鹿らしいソレの存在をまた再確認させられたんだ。

全ては思い通りで、完全に正確だと僕は思う。僕の中の、こんな人間でいたい、こんな風に思われたい、というイメージは確かにそのとおりになっていた。そこまで付き合いの濃くない人物には、僕が表面的に作ろうとしている自己イメージどおりに評価されている。
そしてケントの言った言葉は、言わば僕の心の奥、表面上の偽りの僕を疑う本質の声だ。僕はいつもこの声を聞いていた。

僕の本質は、頑固で、傲慢で、イライラしやすく、自己中心的で、インテリと思われたくて、かっこいいと思われたくて、何かと、誰かと比較することで自分の価値を確認したがっていて、自分が本当はどんな人間なのかバレるのを怖がっている。
そんな奴。そして僕が本当はこんな人間だと知っていて評価しているのは、他でもない僕自身なのだ。

目を閉じて、この滑稽さを笑った。

僕が考えていた以上に、全ては’思い通り’だった。