12/19/2015

LOST IN WONDERLAND1

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「で、どうすんの?とりあえず決めろや。」

マサが眉間に皺を寄せながら言った。重苦しく気まずい空気が流れている。
僕はどうするべきか考えながら煙草に火を着けた。

「やっぱり、俺今日は帰ります。すいません。」
ケンが顔を引きつらせながら言った。

この日僕は、マサとケンと三人でレイブパーティーに行く予定だった。

マサは僕より一歳年上で、筋肉質な体に全身刺青、鋭い目つき、僕とは全く違う人生を生きてきたであろう完全なアウトローだ。すごく気の良い奴で優しい性格だが、たまに怖い目をする。不良特有のあの目だ。芯の強さを感じる。なにかあったらヤッてやる、そういう雰囲気を持っていた。

ケンは僕らより年下で、奇麗な顔立ちで背が高く、さわやかな空気の男前でお調子者の優しい奴だ。

僕はこの2人に会うのは数回目で、まだ出会って間もなかった。数日前に皆でジョイントを回していた時にレイブの話になり、予定の無かったこの三人で行く事になったのだ。

サーファーズパラダイスを出発して数分経った車内、ケンが予定があるから夜には帰らないといけないと言い出した。しかしレイブの本番は夜だ。
現地までの移動時間を考えると夜に帰ってくるのは不可能だった。道脇に車を止めどうするか考えているとケンが今日は帰ると言い出した。どうしても外せない予定らしい。
僕とマサはまだ一度も二人になった事が無く、これからの長旅を二人で楽しく過ごせる様な関係は築けていない。お互いに、二人になるのは気まずい、そう思っていたはずだ。

申し訳なさそうな顔をしながらケンが車を降り帰って行った。

「二人で行くか。前に乗りなよ。」

マサが静かに言った。僕は頷き、車は走り出した。
車内はカーステレオから流れる音楽だけが静かに響いている。
堪え難い沈黙、何か話さなければ、そう思い少しでも共有できそうな話題を探した。

マサも同じ事を考えていたんだろう、ぽつり、ぽつりと僕らの間に会話が生まれだした。
移動する車内は会話を成立させるには最適な環境だったと思う。正面に座るよりは並んだ方が良い、景色は一定よりも移り変わって行く方が良い。人間の習性は不思議だ。
いつの間にか僕らは笑い合っていた。直感から来る第一印象は大体において正しい場合が多いが、心の奥の方は話さなければ分からない。
マサと話していくうちに意外な部分が次々に見えてくる。僕とは全く違うと思っていたのに共感できる部分、似ている部分が見つかっていく。無理に二人になったおかげで僕らの距離感は縮まった。

車は広大な道を南に向けて走って行く。いつの間にかBGMはサイケに変わり僕らの期待感は高まっていた。会場に着いたらビールを飲もう、夜は一晩中踊り狂おう、お互いに初めての海外レイブだ、こんなにドキドキするのは久しぶりだった。

サーファーズパラダイスを出てから一時間半が経ち、山道をしばらく走った後、経由地のニンビンに到着した。
ニンビンは有名なヒッピータウンで、観光客とヒッピー、好き者とプッシャーが集まる山間にある小さな村だ。そこら中にサイケデリックアートが描かれており、ヘンプバーやヘッドショップが軒を連ね、何処を歩いていてもガンジャの匂いが漂ってくる。
まずはここで今夜の為のガンジャと、会場へ行く為の正確な地図を手に入れる必要があった。レイブはシークレットパーティーだ。警察を避けるため山奥で行われており、そこへたどり着く為の地図は事前にメールで知らされる意外人づてに入手するしかない。まだ地図を手に入れていなかった僕らは、ニンビンなら手に入ると踏んでやってきたのだ。

車を止めて外に出ると、早速声をかけられた。

「marijuana! good one!」

ニンビンは無法地帯だ。昔に比べ取り締まりが厳しくなったらしいが、日中から堂々とプッシャー達が客引きをしている。クソみたいな粗悪品を高い値段で売ろうとする奴からハイドロの高品質の物を売る奴まで様々だ。
僕らは数人のプッシャーに声をかけ、気に入った二種類のハイドロを合わせて5グラム買った。
無事ガンジャが手に入ったところで次は地図を手に入れないといけない。
何か情報を持っている奴を探して通りを歩いていると声をかけられた。

「おぅ!マーじゃん!」

向こうから三人組の日本人がやって来た。
マサの知り合いで現地で合流予定だった奴らだ。一番目立つドレッドの男は裕太君と言う奴で、10年間アメリカでプロサッカー選手をしていたらしく独特の雰囲気の男だった。他の二人の名前は忘れたが皆刺青にヒッピー風の奇抜な服装、いかにも、な雰囲気の奴らだった。すでに一服キメているらしく赤い半開きの目でニヤニヤしていた。彼らに会場の場所を聞いたが、分からないらしく、一旦分かれてそれぞれ情報を探す事になった。

ニンビンの路上には小汚い格好のヒッピー崩れ達が大勢いる。楽器を演奏していたり手作りのアクセサリーや服を売っていたり、ただぼーっとしている奴や、観光客相手に偽物のハードドラッグを売りつけるクズまで。

僕らは片っ端から声をかけてレイブに関する情報を集めた。さすがに外国人でしかもヒッピー達だ。人によって全く言う事が違う。今日は中止になったと言う奴もいれば、あそこの店に行けば教えてくれるという奴もいた。実際に店に行くと、知らないと言われ、僕らは小さなニンビンの街を何往復もして情報を探した。いつの間にか二時間が経ち、僕らは焦り始めていた。

一件の店でとても親切な女性に出会った。その店は入り口においてあるスピーカーからサイケが大音量でかかっていて、店内には洋服から喫煙具、ポスター、とにかくヒップな商品が所狭しと並べられている。
ニンビンの店は基本的にそんな感じだが、僕個人的にはこの店が一番品揃えもセンスもいいと思った。小さなレジの奥に初老の女性が座っていた。
この店の店主らしい。ヒッピーがそのまま歳をとった、という雰囲気の女性で柔らかな顔つきから優しさがにじみ出ていた。彼女の足下には大きなピットブルが幸せそうに眠っていた。

この人なら何か知っているかもしれない、そう思って話しかけた。

「あなた達日本人?私は昔日本に住んでいたのよ。日本人は皆親切で大好きよ。」

思ったとおり会話をしてもとても優しい人だった。
僕らはレイブに行きたい事、地図がまだ手に入らない事、二時間も探しているけど未だに情報が手に入らない事を伝えて何か知らないか訪ねた。

「OK,分かったわ。私が友達に聞いてあげる。必ず行かせてあげるから安心して。」

店が営業中にも関わらず女性はiPadを取り出し、SNSを使って友人にレイブの情報を知らないか聞いてくれた。さらに返事が来るまでの間、店の外に出て隣の店のスタッフに聞いたり、道行く人に話しかけてなんとか地図を手に入れようと協力してくれた。今まで時間がすぎる事に焦り、いらついていたけど、彼女の無償の優しさに触れて暖かい気持ちになった。行く先々で僕は誰かに助けられている。

30分ほど経った頃、隣の店のスタッフがやって来た。

「見つけたぞ。お前らが探してたのはこれだろ?」

彼が差し出したパソコンの画面には一枚の地図の写真が映っていた。古い紙の地図に手書きで星のマークがしてある。地図は古いタイプの物で見にくかったがこれを頼りに行くしか無い。とにかく僕らは地図を手に入れた。諦めなくて本当に良かったと思った。
僕らを助けてくれた女性と、隣のスタッフにお礼を言い、会場に向かうべく車に乗り込んだ。

地図に従ってまずはカジノと言う街を目指した。
カジノは小さな田舎町で、そこから山道を行く事になる。日が出ているうちに会場に着かないとおそらくたどり着くのは不可能だ。

車を飛ばして地図の星マークを目指した。
しかし地図が見づらい事と、あまりに土地勘が無いせいで何度も道に迷う。行った道を戻り、こまめに車を止めて地図を確認し、なんとか山に入る道を見つけた。ここからは完全な山道だ。道路は舗装されておらず、周りは木が生い茂っている。車が通った跡すら無い狭い一本道。とにかく行くしかない、自分達の運と地図を信じて山道を進んだ。

「あれ?ここさっき通ったよな?」

マサが困惑した様子で言ってきた。確かにこの道は通った事が在る。
いや、あまりに似た様な景色が続くせいで見分けが着かなくなっているんだ。
おまけに山は電波が入らず、グーグルマップも電話も使えない。
不安を感じながら自分たちの判断を信じて山道を進んだ。何処までも続く道、変わらない景色、通り抜け禁止の看板、頼りは地図のみ。
だんだんと僕らの間に会話が無くなっていき、明らかにテンションも下がっていた。時間は既に六時を回っており、太陽が沈み始めている。
僕はもし、会場にたどり着けず、山中で迷ってしまった場合の事を考えた。
旅行気分で軽い装備で来てしまった僕らは、食べ物どころか水すら持っていない。おまけに夜は冷え込むだろう。電波もないから助けを呼ぶ事も出来ない。
在るのは5gのガンジャのみだ。
それに一晩車中で過ごした所で、日が出たら帰れるだろうか?かなりの時間山中を走っているのに何も出てこないし、もしかして僕らは迷子になっているんじゃないか?

「もどっても帰れそうにないし、とにかく進むしか無いよな。」

マサが低い声でつぶやいた。
僕は不安になっている事を悟られない様に努めて明るく、大丈夫、道は合ってるはずだし、日が沈む前にはたどり着けると思う、このまま行こうと言った。

僕らは会話もする事無く、とにかく山道を奥に進んだ。
日がほとんど沈みかけている。周囲が暗くなって行き、道の脇の木の影が道路を覆う様に伸びている。沈黙が続く。

この道をまっすぐ進んで、もし曲がる所が出てこなかったらレイブは諦めてなんとか山を下りよう。そう決めて暗くなった山道をゆっくりと進んだ。
僕はもう諦めていた。マサも帰って酒を飲もうと言っている。

帰れたらどうするか話し合っていると、音が聞こえてきた。

ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、山奥のこの場所には似つかわしく無い地鳴りの様な低い音。
僕らは顔を見合わせて音のなる方に耳を澄ませた。









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