12/22/2015

LOST IN WONDER LAND 2

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山の中で重低音が鳴り響いている。
諦めかけた矢先、僕らはどうやらたどり着いたらしい。マサと握手を交わし、会場に無事たどり着いた事を喜び合った。不安と恐怖を感じ、諦めようとした時に目的の場所が目の前に現れた。

音を頼りに狭い山道を奥に進んで行く。前方に数台の車が並んでいる。どうやら受付みたいだ。
白人の女が客から金を受け取り手首にリストバンドをつけてやっている。
リストバンドが代金を払った証みたいだ。
一人80ドルの代金を支払い、僕らは会場内に入った。ここに来るまでは一台も車を見なかったのに、中にはかなりの数の車が止まっており、併設されたテントエリアにはテントがひしめき合っていた。

僕らは車を止め、さっそくメインのブースの様子を見に行く事にした。
会場は広くサッカーコート2つ分くらいの広い芝生のスペースで、中央の端に不思議の国のアリスの猫のキャラクターを模したDJブースが設けられており、その前で数十人の男女がサイケに合わせて踊っている。
ブースからレーザービームが放たれ、芝生のエリアを囲っている林に幾何学模様を映し出している。夕日が沈みかけ、林の隙間から漏れる夕日の光が会場の不思議な空気感を際立たせている。

ブース前以外にも芝生のエリアにはちらほらと人がおり、ヨガをしていたり、ファイヤーダンスをしていたり、ジョイントを回していたり、思い描いていたレイブの光景が目の前に広がっていた。
僕は海外のレイブにやって来たのだ。何故こんなにレイブに惹かれていたのかは分からないが、とにかく刺激と経験を求めていた。
そこら中から立ちこめるガンジャの匂い、鳴り響く音楽、空間を作り上げるヒッピー達、僕の好きな世界感、カオスで、雑多で、幻想的、僕は興奮していた。

隣を見るとマサも目を輝かせている。僕らはさっそくジョイントを巻く事にした。
車に戻り上着を羽織った。さすがに山中だけあり夜になるとかなり冷え込む。
ニンビンで手に入れたガンジャをほぐし、数本のジョイントを巻いた。

僕らは山道を走っていた時が嘘の様な高いテンションと軽い足取りで再びメインブースに向かった。ブースの前はすごかった。派手な格好のヒッピー達がサイケに合わせて踊っている。ダンスの種類なんて関係ない、それぞれが音に一番フィットする形で自由に体を動かしている。

数人の日本人も見かけた。皆かなりレイブ慣れしている様子で、服装も雰囲気もこの場にフィットしていた。
彼らは昨日から来ているらしく、すでにぶっ飛んでいた。
僕らは巻いてきたジョイントに火を着けた。朝から車で彷徨っていた事と、不安と安堵を一気に経験した事で無意識に疲れていたらしく、すぐにハイになった。爆音のサイケが僕らの体を揺らす。

「ヤバいな!これマジでヤバいな!」
マサはパーカーのフードを深く被り、激しく首を振っていた。
あまりに周りの連中が自由に踊っているから、僕も何も気にする事無く自由に体を動かし、音に身を任せた。音楽で踊るってのはこういう事だと思った。ジャンルとか型は関係ないのだ。

一時間程踊っていただろうか。既に日は沈み、芝生のエリアを囲う林は暗闇に包まれ、DJブースの放つ光と、来場者達のテントや車から漏れるわずかな光、月明かりだけが僕らを照らしていた。
そろそろ、僕らももっとハイになろう。マサとそう話し合い、飛び道具を探しに行く事にした。日本人達にどうやって手に入れたのか聞くと、テントエリアのヨーロピアンやオーストラリアンに声をかけて売ってもらったという。
僕らはさっそくテントを周り、持っていそうな奴らに声をかけて廻った。
今日は僕らは探し物をしてばっかりだ。

数人に声をかけたが、持っている奴は居なくて、いてもぶっ飛びすぎていて話にならない様な奴ばかりだった。
僕らはまた探し物がすぐに手に入らない事にいらつき、少し気分も下がっていた。一度車に戻って休もう。そう決めて林の中を歩いていると、一人の男が話しかけてきた。

「お前ら何か探してるのか?」

一発でプッシャーだと分かる空気を持った男だった。恐らく三十代の白人で、片方の目がつぶれていた。きっとレイブ会場に出入りしてはドラッグを売っているんだろう。僕らは飛び道具を探している事を伝えた。
男が早口のオーストラリア英語で話してきた。

「ピュアエクスタシーを買わないか?一発$20だ。上物だぜ?見てみるか?」

僕らが見てみたいと伝えると男はポケットからパケを取り出し、その中からカプセルを二つ取り出した。カプセルの中には細かく砕かれた黄色がかった結晶が少しずつ入っていた。
僕は初めて目にするそいつに少し困惑した。日本ではまずお目にかかれない物なのは確かだった。今まで数回エクスタシーは試した事があるけど、それらはどれも錠剤で、いわゆる合成麻薬だった。
ピュアエクスタシー、文字どうりに理解するならば、合成麻薬に入っているエクスタシー成分の純度100%の物という事になる。
僕らは一人一発ずつ買う事にし、男に$40を支払った。レイブにドラッグは付き物だ。それが無ければ成立しないディープなパーティーなのだ。

初めて試すドラッグは緊張する。効果が予想できない事、適正な摂取量が分からない事、オーバードーズする可能性、不安要素はたくさんあったけど、僕らはそれよりも期待感が勝っていた。この最高の環境でさらにハイになれるんだ。
早速一発ずつ口に入れた。独特の苦みが口中に広がる。持っていた水で流し込み、芝生に腰掛けるとジョイントに火を着け、効果が現れるのを待った。

30分程経った頃、ふと立ち上がると、一気に来た。体中の皮膚が敏感になっている様に感じ、心臓がすごいペースで鼓動を打っている。頭がぼーっとし、遠くで聞こえるブースの音が凄まじい立体感で僕の耳に突き刺さってくる。

林の木に映っているレーザー光線が描く幾何学模様は次々に形を変え、まるで僕の鼓動に合わせる様に動いている。
僕らはブース前に向かった。スピーカーから鳴る重低音が地面を揺らし、下から突き上げられているようだ。しばらくブース前で踊っていると体の疲れを感じだした。鼓動の早さに体が着いて行かない。僕らはふらふらとフロアを後にし、ジョイントを巻く為に一度車に戻った。

「少し休憩するか。」

マサがそう言い、車内でしばらく休憩する事にした。
シートを倒し、目を瞑ると体中がジワッと暖かくなってきた。
凄まじい多幸感だ。日々の不安や恐れ、ストレスは吹き飛び、ただただ安心感と楽しい気持ちに包まれた。隣に友人が居る事も僕を安心させた。
これがエクスタシーがラブドラッグと言われる所以だ。周りの環境、人々、自分自身に愛を感じる。他に言いようが無い。とにかく愛を感じていた。

気がつくと二時間ほど眠ってしまっていた。エクスタシーの効果は落ち着いたらしく、すっきりした状態で目が覚めた。時間は深夜二時、パーティーの本番はこれからだ。もう一発いこう。そう決めた僕らは再度車を出てプッシャーを探した。今度はすぐに見つかり、同じ物を一発ずつ買った。

今度は恐れる事無く飲み込んだ。この二発目が凄まじかった。
飲み込んでから30分後、僕らは絶頂を迎えた。酒なんか比べ物にならないハイな状態、周りの奴ら全員を心から仲間だと感じた。

「おい!エソン!上見てみろよ!」

マサが興奮しながら話しかけてきた。言われたとおりに上を見ると、息を飲んだ。今まで見た中で一番美しい満点の星空が広がっていた。黒い布の上にダイヤモンドをちりばめ、四方八方から光を当てているようだ。中心で月が光り、周りの雲に虹色の円を描いている。僕らは少年のような気持ちで、美しい星空を眺めた。

寒さで冷えた体を温めるため、焚き火をしている所に向かった。焚き火を中心に20人程の奴らが円を作り、抱き合っていたり、話をしていたり、高揚感に浸っていたり、それぞれにリラックスしていた。腰を下ろしてしばらくすると何処からとも無くジョイントが廻ってくる。エクスタシーのハイ、火の暖かさ、偶然ここに集まった仲間達、僕はこの時、間違いなく幸せだった。

体を温め、再度ブース前に向かった。パーティーも絶頂を迎え、ダンスフロアは興奮に包まれている。

「おい!やっと見つけた!調子どーよ?」

ニンビンで会った裕太君だ。彼らもなんとかここにたどり着いたらしい。既に何かやっているんだろう、瞳孔の開いた目をぎらつかせ、体をくねくねと動かし、世界に入り込んでいた。僕らは握手を交わし、無言で互いの高揚感を共有した。

僕らも一心不乱に踊り狂った。これは現実逃避だ。それは否定できない。でもその分自分の心の奥底を覗き込む事になる。DJが掛ける音に合わせ、次々に心の中のダンジョンをクリアして行く様な感覚、向き合うのを避けていたトラウマと向き合い、振り払う様に踊る。サンダルを脱ぎ、裸足になって地面を踏みしめた。裸足で土を踏むなんて何年ぶりだろうか?土はこんなに暖かかったのか。踊れ、踊れ、踊れ、ネガティブも、ポジティブも、悩みも希望も、全てと向き合い、置き去りにし、自分という存在を確かめるように体を動かす。

皆それぞれが踊りながら自分と向き合っているんだろう。何よりもこの空間を共有している僕たち全員に前提として愛があるのが大きかったと思う。
僕は全ての存在を許していたし、僕の存在は許されていた。

いつの間にか数時間が経っていた。空が少しずつ明るくなってきていた。
僕らはフロアを離れ、芝生に腰を下ろし改めてこの世界を見つめた。奥深い山の中、スピーカー、個性豊かな人達、まだガンガンに踊っている奴、瞑想をしている奴、ヨガに励む奴、キスをするカップル、眠っている奴、この空間は何なんだろうか?カオスだ。本来なら交わらない物を無理矢理ごちゃ混ぜにしてみたら、結果として美しい物が生まれた様な、シュールレアリズムの絵画の様な、説明が難しい。違和感と矛盾、汚さと美しさ、不思議の国に迷い込んできたみたいだ。本当に美しい物は混沌の中にある。作家の誰かが言っていた。本当にそうなのかもしれない。

朝日が昇ってきた。太陽の光がすべてを照らす。踊っている奴も、座っている奴も、朝日に照らされ光っている。新しい朝、なんて清々しいんだろう。

僕らは、アウトローで、ジャンキーで、社会のはみ出し者で、犯罪者で、クズで、どうしようもない奴らだ。
そして僕らは、音楽を愛し、自然を愛し、仲間を愛し、自由を求め、精神の解放と探求を目指す。
僕は、僕が、彼らが、この世界に必要の無いゴミだとは思えない。
だってここに居る奴らはこんなに楽しそうで、幸せそうで、美しいじゃないか。この一瞬、この時間、この空間、こんなに素晴らしいものを生み出せるじゃないか。この数ヶ月で、いや数年で一番僕は自分を、世界を愛していると感じた。

「そろそろ帰るか!」

マサが笑顔で話しかけてきた。帰ろう、僕らは長い旅を終えた。
車に戻り会場を後にする。僕らの高揚感はまだ続いている。
どこか遠くの異世界に行って帰ってきたかの様な不思議な後味だ。心地のいい疲労感と、達成感、満足感を感じながら、また必ず行こう、今度は皆で。
そんな事を話し合いながら僕らはサーファーズパラダイスに向けて車を走らせた。

太陽は空高く昇り、遥か前方に見えるビル群を照らしていた。

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