12/08/2015
やっぱりそうだ。
この日もいつもと変わらずゴールドコーストのクラブはTOP40が代わる代わる流れ、有り余ったエネルギーを抑えきれない白人達がフロアで熱狂を生み出していた。僕は一緒に来た友人ともすぐにはぐれ、一人バーカウンターに寄りかかってビールを飲んでいた。
バーではストリップさながらの際どい衣装に身を包んだ女性バーテンダー達が忙しなく酒を作っている。カウンターは酒を待つ奴、ショットで乾杯する団体客、僕の様にぼーっとしている奴で埋まっている。何処を見るでも無くフロアを見つめていると、僕の隣で日本人が流暢な英語で酒を注文しだした。
焼けた肌に整った顔立ちで、スケーターファッションに身を包んだそいつは、ポケットからくしゃくしゃの札を取り出し、金額を確認すると困った様子で僕の方を見てきた。
持ち金が足りないらしい。
「ごめん、ちょっと金かしてくれないか?後で返すから。」
どうせ返ってくるはずが無いと思いつつも、断る事が面倒に感じた僕は財布から5ドル取り出してそいつに渡した。支払いを終えるとそいつは焦点の合ってない目で僕を見つめ、お礼を言って握手を求めてきた。
「急にごめんね、マジで助かった。俺はカイセイ(仮名)。よろしく。」
僕も自己紹介し、二人で静かに乾杯した。カイセイがハイになっているのは一目瞭然だった。彼はこっちでの生活が長いらしく、日本人というよりは欧米人に近い雰囲気をもっていた。それは少し海外で生活した事で勘違いした奴が国際人を気取っているのとは違って、なんというか彼の無意識の中にしみ込んでいるごく自然なもので、帰国子女やハーフの人間に共通するものだった。しぐさや、話し方、全体の空気感が日本人とは明らかに違う。
僕らは何となく二人でソファーに座り、話をした。
他愛も無い話をしていると、カイセイが思い出した様に話しだした。
「なぁ、ポートダグラスって街を知ってるか?ケアンズから北に70キロ行った所にある
観光地なんだけど。」
分からない、僕がそう答えると彼は続けて話した。
「絶対に行った方が良い。ポートダグラスから更に山に入っていくと、ヒッピーコミューンが在るんだ。そこは多国籍のヒッピー達が集まっていて、テレビもネットもない。かろうじて電気はあるけど、限りなく自然に近い生活で、山の中で動物に囲まれながら昔のヒッピーのようにやってるんだ。俺はそこで三ヶ月生活したけど、最高に刺激的だったよ。きっと君は気に入ると思うし、自分を見つめるのにはばっちりの場所だ。」
ヒッピー、僕の中で昔から興味を惹かれてしょうがない人種だ。60年代のサイケデリックレボリューションは若者達を魂の解放へと駆り立て、その後の世界の発展に無くてはならないインパクトを残した。
時代が変わった今、50年前と同じ事を繰り返すのは愚かだと思うが、彼らが作った文化や世界観は、今の時代に於いても僕らが生きていくヒントになると思う。
ヒッピーの世界観を知る事は僕の旅のテーマの一つでもあり、カイセイが何となくくれた情報は僕の興味をそそるには十分なものだった。
そう伝えると、半開きの目で僕の方を見ながら、彼が言った。
「じゃあ、DMTを知ってるか?」
一瞬酔いが醒めるほどに、僕は彼の言葉に反応した。
DMT、キングオブサイケデリクス、人間を意識の深淵へと導き、説明不能の世界を見せる、最高に奇妙で超意識状態に最も近い状態へと僕らを誘う魔法の物質だ。
僕が初めてDMTを知ったのは二年前のインド、ブラフマーを祀る聖地プシュカルの湖のほとりでスウェーデン人のヒッピー達とジョイントを回していたときだ。
おもむろに彼らが取り出した小瓶の中にそいつは入っていた。
これは何だ?そう訪ねると彼らはまぁ良いからやってみろと言いパイプに少しだけつめて僕に渡してきた。
恐怖よりも好奇心が勝った僕は恐る恐る火を着け、深く吸い込んだ。
数十秒後、僕は完全に別世界に飛ばされていた。
コントロールが効かない事による恐怖、自我が悲鳴を上げる。現実の別の側面を強引に見せられ、一体ここは何処で、僕は誰なのか、分からなくなった。
今まで培ってきた自分という物と、絶対だと信じていた現実が酷く不安定で実体のない物に思え、何が本当なのか分からない。
真っ暗なトンネルの中を猛スピードで進んだかと思うと、色彩が完全に反転した見慣れた現実の風景を見せられ、身体感覚が無くなり、目を閉じると言葉を失うほどに美しい、そして僕のボキャブラリーでは説明できない光景が広がる。とにかく、分からない。これは一体なんだ??
パイプに火を着けてから15分後、今まで見てきた物は夢だったかの様に現実が僕のもとに戻ってきた。いや、僕が現実に戻ってきたのか。
まるで数年感旅をしてきたかの様な感覚と疲労感、あまりの体験に全くついていけなかった。ヒッピー達が笑いながら僕を見ていた。日没の夕日が湖を照らし、いつにも増して神聖な空気を醸し出している。
「どうだった?ヤバいだろ?」
ヒッピーが話しかけてくるけど、僕は言葉が出なかった。何をどう言っていいのかわからなくなっていた。
この体験の衝撃は数日間尾を引き、僕の頭の中はDMTについて知りたい、その思いで一杯だった。DMTは僕の疑問を解決してくれる、この道の最高の案内役になり得る。それ以降僕はDMTについて調べまくり、もう一度体験する事を夢見ていた。
そんな事を思い出しているとカイセイが目を光らせながら話しだした。
「あれはマジでヤバいよ。俺もそこまで体験が多い訳じゃないけど、意味不明で奥が深すぎる。一体何が現実なのか分からなくなる。脳内のイメージが目の前で現実になるし、何処にだっていける。一体今までこの体でしてきた事は何だったんだって思ったよ。パリやロンドン、ニューヨークに行ったよ。一度も行った事が無いのに。あと俺が勝手に思ってる事なんだけど、DMTは人を選ぶ。選ばれた奴しかあいつには会えないし、下手な奴がやれば完全に自分がぶっ壊されちまう。何人か日本人でどっかに行っちゃった奴も居たよ。まぁ、エソンはきっとどこかでやるんだろうな。」
カイセイは話し終えると目を瞑り、寝息を立てて眠ってしまった。
僕は残っていたビールを飲み干し、クラブを出て家に向かった。
やっぱりそうだ。DMTは僕の疑問を解決する手助けをしてくれる可能性が有る。
そして僕がDMTに興味を持った時から、全ては導かれている気がする。
異国の地でたまたま入ったクラブで、たまたま出会った奴から情報を得た。
勘違いでも構わない。やっぱりそうなんだ。
人気の無い街を一人歩きながらそんな事を考えていた。
Subscribe to:
Post Comments
(
Atom
)



No comments :
Post a Comment