5/15/2016

回想2008~ルーツと聖なるロクデナシ~

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ちょうど今から8年前、まだ東京に出たてだった僕はある場所で、ある人達と出会い、それまでの、いや、今現在までで一番の衝撃と影響を受けた。
当時僕は杉並区にあるレゲエがかかる南国風の居酒屋でアルバイトをしていた。その店は時給が安く、学生だった僕にとってはお金の面ではいい環境とは言えなかったが、他の部分で十分な魅力を感じていた。
シャレた内装でルーツレゲエが流れており、店に来る客もバンドマン、ファッション業界人、アーティスト、裏カジノのディーラーとか変わった人から、もちろん普通のサラリーマンや学生まで幅が広く、カウンターに立って彼らの話を聞くのがまだ世間の事を何も知らない僕にとっては面白く、刺激的だったのだ。

僕はそこであるグラフィティーライターと知り合いになった。彼は僕より7歳年上で、ストリートカルチャーに大きな憧れを抱いていた当時の僕は、目の前に本物のグラフィティーライターが現れた事に興奮し、すぐに彼を兄の様に慕う様になった。彼も彼で、かなり頭はぶっ飛んでいたが面倒見は良く、田舎から出て来た何も知らない僕に、今まで聞いた事もない様なアンダーグラウンドのカルチャーについて色々と教えてくれた。段々とストリートカルチャーがどんな物なのかが少しだけ分かって来て、もっと色々な物が見たい、知りたいと思っていたある日、彼からあるイベントに誘われた。

「今度俺がDJやるイベントがあるから遊びに来いよ。東京で一番ドープな場所で、かなりコアなパーティーだから。あとストリートが知りたいんだったら、その場所に’生きるストリート’がいるよ。俺がリスペクトしてる人。」

’生きるストリート’

僕はその場所がどんな場所で、どんなイベントがあるのか、そしてその人物はどんな人なのか、気になって仕方が無かった。必ず行くと約束して、イベント当日を心待ちにしていた。

イベント当日は僕と、同じ職場の友達の2人でライターの先輩にその場所に連れて行ってもらった。東京某所、東京の中でも治安が悪く有名な地区にその場所はあった。
建物を見ただけで、とにかく驚いた。そこはラブホテル街で、その建物も古いラブホテルを改装して作られていた。そこまではさほど驚く事ではないが、建物の外壁全面が、グラフィティーアートで覆われていたのだ。東京ともなれば、街の至る所でグラフィティーを見る事はできるし、ソレ自体はさほど珍しいものではないが、コレだけ多くのグラフィティーを一気に、しかも一つの建物で見るのは初めてだった。その場所はラブホテルと住宅が立ち並ぶ静かな場所で、そんな中に佇むソレはまさに異様の一言だった。

田舎出身の真面目な若者には、その時点で十分すぎる衝撃だった。先輩が慣れた様子でドアを開け中に入って行き、僕と友達もそれに続いた。ヤバい場所に来てしまったと思った。中に入ると、当時の僕からしたらすぐに現実だと受け入れられない光景が広がっていた。ドアを開けた瞬間に、強烈なマリファナの匂いが鼻をついた。煙は立っていない、きっと建物に染み付いているんだろう。
そこはクラブ、というよりは複合施設の様な所で、二階建ての建物の中にスケートランプ、BAR、ライブスペース、服屋、ギャラリースペースが詰め込まれていた。

イベントはもう始まっていて、ドラムンベースがかかっていた。ビートに呼応するように、僕の心臓も高鳴っていた。興奮と緊張で少し顔が引きつっているのを感じた。そこはまるで、映画の中の様な空間だった。スケートランプでスケーター達が滑っている。バーでパンクスが酒を飲んでいる。DJブースの前では刺青だらけの男達が談笑していて、女達は、今まで僕が学校で接してきた子達とは確実にタイプの違う、派手でどこか毒気のある雰囲気の女ばかりだった。
先輩が知り合い達と握手を交わし、その都度僕らを紹介してくれるが、僕は場の雰囲気に飲まれていて、相手の名前もロクに覚えられなかった。

「先輩らに紹介するから来いよ。」

そう言われて僕らは二階に向かい、ドアを開けてある部屋に入った。中には男女7,8人がいて、ジョイントが回っていた。皆が一斉に僕らを見た。先輩が僕らを紹介してくれ、輪に加わった。僕はまだ緊張していた。部屋に居るメンツは皆映画か漫画のキャラクターじゃ無いかと思う程個性的で、本物の不良ばかりだった。そこに’生きるストリート’もいた。一目で分かった。長いドレッドヘアに、刺青だらけの体、鋭い眼光、一際目立っていて、僕は生まれて初めてオーラというものの存在を感じた。
彼らは見た目は怖いが話すと優しく、こんな場所に来てしまった普通の学生の僕らが珍しかった事も在り、気さくに受け入れてくれた。

僕は変わらず緊張していたが、同時に嬉しさでニヤついていた。憧れていた東京で、自分が知りたかった世界のど真ん中の一番奥にたどり着いた。そんな風に感じていた。彼らが話す話の内容は刺激的で、まるでどこかの物語を聞いている様な気分にさせられた。子供の頃に持っていた大人のイメージ、両親や先生、テレビで目にする大人達、そういう僕の今までのイメージを覆す人達が実際に目の前にいた。

一時間程話すと、少しずつ部屋から人が居なくなっていき、今夜のイベントが本格的に始まりだした様子だった。フロアに行くと僕らを連れて来てくれた先輩がDJをしていた。当時は知らなかった”ジャングル”というジャンルの音をかけていて、頭が引っ掻き回されそうだった。それが音のせいなのか、マリファナのせいなのか、それともこの空間のせいなのかは定かではなかった。
少し疲れを感じた僕らは、一度ギャラリースペースを見に行く事にした。ギャラリースペースは畳4畳程のスペースで、壁は一面赤の壁紙が張られていて、下半分が鏡張りになっていた。ラブホテルの名残だろう。そして壁には所狭しと、額に納められた絵が飾ってあった。かっこいい。ただただそう思った。絵を見終えると、僕らは床に座り込んだ。短い時間で刺激を受けすぎて、気づかぬうちにすごく疲れていた。壁の鏡に映る僕の顔は、嬉しさ、疲れ、興奮、緊張、全部入り交じって何と表現したらいいか分からない表情をしていた。

一息ついてイベントが行われているフロアに戻ると、’生きるストリート’が歌っていた。DJ、ベース、ドラム、キーボード、の4人が創るミクスチャーな音の上で、ドレッドを揺らしながら、反体制を叫んでいた。ヘアバンドに挟んでいたジョイントを取り出し、火を着けた。煙が立ち、客が盛り上がる。ジャンルレスな音、タトゥー、攻撃的な歌詞、自由そのものだった。

僕は見いっていた。マリファナが効いているせいもあって、自分が映画かPVの中に入り込んでしまった様な気分だった。ライブが終わり、何人かのDJがプレイし、フリースタイルショーが始まり、ライブタトゥーイングが行われた。僕は何杯か酒を飲んで、最高の気分だった。いつの間にかイベントは終わり、帰路に着く時、今日知り合った何人かの人と挨拶を交わした。迷い込んだ異世界から、現実に帰る様な気分だった。

その後僕は何度かこの場所に行き、その度に日常生活じゃ絶対に味わえない刺激を受けた。ここに出入りしている人間達は、皆普通じゃなかった。僕は彼らの仲間になれた訳でもなく、僕の事を覚えている人は居ないだろうし彼らの事は何も知らないが、外から見た彼らは、自由で、強く、社会や権力が嫌いで、自己の力でこの世界を生きて行く、そんな姿勢の人間ばかりだった。そして同時に、弱くも在り、繊細で痛々しく、不安定で、人生というフィールドのギリギリの場所を敢えて歩いている、そうじゃなきゃ生きていけない様な、悲しくも美しい存在、そんな風に見えた。

僕は人生に迷った時、現在の自己を振り返る時、過去を思い返す時、この場所を訪れた事を、そこに居た聖なるロクデナシ達の事を思い出す。


善くも悪くも、今の僕を形創ったルーツは、あの日、あの場所、あの人達だったのだと思う。

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