5/25/2016
タスマニアへ〜やっぱりメリージェーン様々〜
2015年、12月3日朝、僕はゴールドコースト空港に居た。空港内のカフェでコーヒーをすすりながら、飛行機を待っていた。僕の目の前ではカズキがサンドウィッチをほうばっている。
「あ~、ゴールドコースト離れるのさみしいなぁ~。」
もう朝から数回、カズキは同じフレーズを言っている。カズキはゴールドコーストでの職場の同僚で、歳は僕より一つ下、最初に会ったときは苦手なタイプだと思ったのに気づけばツルむようになって、何故か一緒に移動する事になった。僕とは全然タイプの違う、所謂リア充と言われる様な奴だと思っていたが、付き合ううちに意外に暗い部分や生真面目な部分が見えて来て、僕と似ていると思う所もあった。
二年目のビザを取得する為に僕はどこかで一定期間、農場仕事をする必要があって、何となくの直感でタスマニア行きを決めるとカズキも一緒に行くと言い出した。一人の身軽さと、誰かといる楽しさを天秤にかけ、一緒に移動する事にした。カズキは半年以上この街に住んでいるから離れる寂しさもそれなりだったらしい。
飛行機はシドニー経由でタスマニアまで計7時間の旅で、空の上からオーストラリア大陸を見下ろすと、日本を出てここにやって来た時の不安や期待を思い出した。次に行くタスマニアはオーストラリアの南東に位置する島で、自然が多く、この時期になるとチェリーのピッキングが盛んになり、かなり稼げると言われるチェリーピッキングの仕事を求めてオーストラリア各地からワーホリメーカーが集まる。どうせならば稼ぎたい、行き先をタスマニアに決めた理由の一つだった。
経由のシドニーにはすぐに到着した。一度荷物を受け取り、預け直し、手持ちの荷物検査を受けて出発ゲートに入って行く。先にチェックを済ませた僕はトイレに行き、後から来るカズキを待っていた。しばらく待っても来なかったので、引き返してみて見ると、カズキが係員と話している。どうやら何かがチェックに引っかかったらしい。近づいてカズキに事情を聞くと、鞄の中にグラインダーが入っていて、中に少しだけガンジャが残っていたらしい。カズキは狼狽えていて、見逃してもらおうと係員に必死に話している。人間は本当に慌てるとあんなに目が泳ぐんだなぁ、なんて思うと同時にマズい事になった、と思った。逮捕される事は無いにせよ罰金は払わされるし予定の飛行機には乗れなくなる、それにお互いそんなに金を持っていないから今罰金を払ったらほとんど残らなくなってしまう。そもそも新品じゃないグラインダーを鞄に入れてくるなんて考えられないミスだ。先が思いやられると思った。僕は僕で昨日、仲間との別れを惜しみながらかなりハイになっていたせいで体が少しだるく、頭もぼーっとしていた。思考する事をあきらめ、事の顛末を見守っていると無事にカズキが出て来た。今回は注意で済み、回収されたかと思ったグラインダーも返してくれたらしい。オーストラリアは寛大な国だ。
無事に乗り換えを済ませ、空の上を数時間、タスマニア島が見えて来た。上空から見るタスマニアは、島のほとんどが緑に見えた。自然が多い、というよりほとんど自然なんじゃないかと思わせられるくらいだ。街も見えるが本当に小さく、何の情報も持っていなかった僕は仕事が見つかるかどうか、そもそもここでやっていけるのかどうか、なんてくだらない心配をしながら徐々に近づいてくるタスマニアの大地を眺めていた。
夕方五時、飛行機は無事に着陸して、僕はタスマニアに到着した。着いた瞬間に、壮大な自然の風景と、空気の奇麗さに驚いた。空が近く雲が立体的で、心地いい風が吹き、気温も丁度よかった。僕が着いたのはローンセストンという街で、空港までは友達のエリカが迎えに来てくれた。エリカはゴールドコーストで少しだけ同じシェアハウスに住んだことがあり、歳が同じせいか何かと僕を気にかけてくれる。真面目で、どちらかと言えば地味だが酒を飲むと人が変わり、普段抑えているストレスをぶちまける、振り幅の激しい子だった。
「エソン君、何か雰囲気変わったね?」
少し怪訝そうな顔つきで、第一声でそう言われた。僕は変わったんだろうか?エリカと会ったのはオーストラリアに来たばかりの頃だし、それから僕もレイブを知ったり、ろくでもない生活をしてみたり、自信をつけたり落ち込んだり、それなりに色々あった分、彼女が知る頃とは違っているのかもしれない。久々の再会のせいか会話もぎこちなくなってしまい、気まずい空気が流れた。車内は僕らとエリカ、エリカの友達二人で、五人もいれば会話も盛り上がるかと思えば、そんなことはなく、何となく気まずい空気で頻繁に沈黙が訪れた。
窓の外の景色も、僕の心をフワつかせた。ひたすらに続く一本道、辺り一面自然だらけで、建物はほとんど見ない。今日の朝まで居た観光地から一転、ここはど田舎だ。本当にこんな所で仕事を見つけてやって行けるのか?急な環境の変化と不安、車内の落ち着かない空気で、体調が悪くなって来ている気がした。カズキは、さっきから全く口を開かず、窓の外をぼーっと見つめていた。
空気を変えようと窓を開けると、急な風で僕のお気に入りの帽子が飛ばされて行った。後ろに飛ばされる帽子を見ながら、「今までの生活は忘れて、ここで新しい生活をして行くんだ。」そう言われている気がした。
空港から一時間、僕らはデボンポートという街に到着した。デボンポートはタスマニアの北に位置する街で、まだ完全にシーズンが来ていないタスマニアで、北のほうは仕事があるという話を聞きこの街を選んだ。デボンポートは小さいが奇麗な港町で、魔女の宅急便の街にそっくりの雰囲気だ。勾配が激しく、高台に上ると奇麗な景色が見れる。港にはメルボルン行きの大きなフェリーが止まっていて、否応にも外国に来ている事を感じさせられた。
この街でのステイ先は、有名なバッパー(バックパッカーズ、ドミトリータイプの宿泊施設で、仕事の斡旋もしてくれる。)を選んだ。仕事も斡旋してくれるし、多国籍の人間がいる環境のほうが刺激が多いと思ったからだ。
町中を抜けて走る事五分、バッパーに到着した。もう日は落ちかけていた。バッパーは真っ白の外装が古い病院の様な雰囲気で、敷地は広く庭があり、悪く無いと思った。
中に入ると、夕飯時だったせいで混雑していて、そこら中から色んな国の言語が飛び交っている、英語、スパニッシュ、フレンチ、イタリアン、韓国、日本。
ゴールドコーストで日本人ばかりとつるんでいた僕が空気に飲まれるのは当然だった。ずっと続いている心のフワつきも、勢いをました。ここで上手くやって行かないといけない、そう思う程に憂鬱になっていった。カズキが同じ様に感じているのも、顔を見れば明らかだった。部屋に案内してもらい荷物を置いて一息つくと、一気に疲労がやって来た。狭い二人部屋、ベランダに出ると、僕らのテンションとは裏腹に夕焼けが最高に奇麗だった。
夕食を済ませると、カズキはすぐに部屋に戻っていった。僕は今後の生活の為に、とりあえず日本人と話して輪に入ろうとしたが、気が合いそうな奴がおらず、外人と話しても英語が上手く出てこず、諦めて部屋に戻った。
ベッドに入って、カズキと心のフワつきをなんとかしようと今日感じた不安や不満、愚痴を言いまくった。話も盛り上がってくると、素面じゃ居られなくなって来た。でも今は何も持っていないし、酒屋も閉まっている。諦めて寝ようとすると、カズキが思い出した様に鞄をあさりだした。あ!あった!そう言ってカズキは空港で没収されかけたグラインダーを取り出した。中には、少しだけガンジャが入っていた。
二人で喜ぶと、すぐにジョイントを巻いて火を着けた。心のフワつきが落ち着き、冷静に思考出来る様になった。ここに繋がっていたのか。
僕らはこれからタスマニアで生活して行く。そして多分、今からの生活が本当の意味での海外生活だ、そんな事を話した。
ベッドに入ると、一気に眠気に教われた。今日はとにかく、長い一日だった。
そしてやはり、メリージェーン様々だった。
Subscribe to:
Post Comments
(
Atom
)




No comments :
Post a Comment