10/18/2015
タイと孤独と欲とポップス
東南アジア独特の熱気と匂いが外国に来た事を実感させる。
前回と同じくカオサン近くに宿を取った。一昔前までは貧乏旅行者が集まるバックパッカーの聖地だったこの場所も今では観光地化し、欧米からの家族連れやカップルの旅行者、現地の若者が集まる場所になっている。貧乏旅行者が集まり、熱気とカオスと少しの危険が入り交じる悪名高いかつてのカオサンの姿はもう無い。
しかし、それでも僕はカオサンが好きだ。もしかしたら何か起きるかもしれない、そう思わせられる雰囲気があるからだ。いつかのディカプリオみたくならない事は分かっているけれど。
一日、二日はタイで済ませる用事をこなしたり観光をして過ごした。
そしてやる事が無くなってしまってふとした時、孤独感が襲ってくる。
外に出れば欧米人達が楽しそうに騒いでいる。そんな中一人でいる自分。ベットに横になり汚い天井を眺める。望んでいた孤独は現実になった途端ただの苦痛に変わった。
僕は日本人宿を避けるタイプでは無いけれどこの時は、日本人に会って当たり障りのない会話をする気にもなれなかった。馴れ合いたくは無い、でも人恋しい。素面でいることが辛い。
カオサン通りの喧噪を聞きながら一人部屋にいる事に耐えられなくなった僕は、酒を飲みに外に出た。宿の近くの店でパッタイ(タイ風焼きそば)をつまみにビールを飲む。
酒に弱い僕は3杯も飲めば酔っぱらう。でもこの日の酒は寂しさを紛らわせてはくれなかった。
全てを忘れたくなった僕は、愚かな判断と分かっていつつもゴーゴーバーに行く事にした。ゴーゴーバー、それはある種タイの象徴だ。
ゴーゴーバーとは要するにストリップクラブの体をした風俗だ。
タクシーを捕まえてゴーゴーバーに行きたいと伝える。
初老の運転手がニヤつきながら首を縦に振った。車内ではタイのポップスだろうか?少なくとも僕の趣味ではない曲がタクシーらしからぬ音量でかかっていた。
「この曲は今タイで大ヒットしてる最高の曲なんだ!」
運転手は聞いてもいないのにまるで自分が作曲した曲かのように魅力を説明してくる。
タイ訛りの英語を聞き流しながら、僕は日本から遊び道具として持ってきていたシアリス(勃起薬)を2錠取り出して持っていたビールで流し込んだ。
15分もすると頭が重くなり、対称的に鼓動が早くなってきた。全身の血流が早くなっていく。通常の二倍の量を飲んだ上に酒とのちゃんぽん、当然だ。
少し後悔し始めた頃、車が止まった。
「さぁ着いたぞ、ここがソイカウボーイだ!しっかり楽しめよ。」
運転手がニヤつきながら言ってくる。何も答えずに車を降りた。
ソイカウボーイはBTSアソーク駅近くの一角で、数店のゴーゴーバーが軒を連ねるエリアだ。蛍光に光るピンクのネオンと通りに溢れる派手な格好の娼婦達が非現実観を演出する。ネオンが娼婦を集めそれに男が群がる。欲望渦巻く夢の場所。クソの掃き溜め。
僕はゆっくり歩き出した。次から次に客引きに声をかけられる。店の中から聞こえてくるEDMが鼓動の加速を手助けしてくる。
特に目当ての店も無かったので、一番大きな店に入った。
その店は有名店らしく、平日にも関わらず店内は人で溢れ帰っていた。
中央にステージがあり、その上で数十人の女がほぼ裸で音に合わせてけだるそうに体を揺らしている。上を見上げると天井がガラス張りになっていて上の階でも女が踊っている。
客席はステージを取り囲むように設置されていて、少しでもいい女を選ぼうと男達が真剣な目でステージを見つめている。僕と同類のしょうもない奴らだ。
ゴーゴーバーのシステムは、酒を注文して席に着きステージで踊る女を見る。もし気に入った子がいれば胸に着けている番号札の番号を店員に伝えると女が隣にやってきて一緒に飲む、後は交渉次第だ。
僕は席に着きぼーっとステージを見ていた。
「ねぇ、一杯飲ませてよ。」
一人の女が声をかけてきた。不自然に整った顔に痩せた体、金髪のショートヘアに耳はピアスだらけ、腕には数個のタトゥーが入っている。
「あぁ、いいよ。」
別に誰だって良かったし、店内でも浮いている目立つ雰囲気のこの女が今日の僕にはおあつらえ向きだと思った。酒を注文し乾杯する。女はテキーラを飲んだ。
「あたしとファックしたい?2000BHTでいいよ。」
自己紹介も無くいきなりの交渉が始まった。早くなっている鼓動とは裏腹に僕の思考は落ち着いていた。というよりも完全に萎えていた。
なんでかは分からない。もう帰ろうか?いや、今帰ったって仕方が無い。
僕はこの女を連れ出す事にした。二人で店を出て近くのホテルに向かう。
部屋代を払い部屋に入る、広い部屋にキングサイズのベット、きれいな部屋なのに普段売春に使われているからだろう、独特の不潔感を感じる。
窓からはソイカウボーイを見下ろす事が出来た。縦に長く蛇行しているソイカウボーイは上から見ると毒を持つ巨大な芋虫に見えた。
一人でシャワーを浴びた。鏡を見ると、これから女を抱くとは思えない沈んだ顔の男がこっちを見ている。
部屋に戻ると女がベットの上で手招きしている。
もうなんだっていい。どれだけ心が沈んでいようが、刺激されれば反応してしまう。
女の見た目に反して行為は教科書どうりの順序で進み、クライマックスに向かった。
毛の無い陰部に蝶のタトゥーが彫ってある。僕が動くたびに蝶がかすかに羽を揺らす。
気色の悪い毒芋虫は奇麗なアゲハ蝶に化けた。
「ごめん、もう無理だわ。」
僕は行為を途中で辞めた。頭痛がする。こめかみに血が流れているのを感じてしまうくらいに僕の血流は早くなっていた。これ以上興奮を保つのは不可能だ。
「疲れた?あと1000BHT払ってくれたら朝まで付き合うよ。家に帰ればヤーバーアイスもあるし。」
女がぎらついた目でこっちを見ている。ソイカウボーイの蝶は花より金が好きらしい。
これ以上ここでこの女とはいれない。例え朝までいたとしても、何かを失う事こそあれど心が満たされることは確実に無いだろう。
僕はシャワーも浴びずに服を来て、逃げるように部屋を出た。
早くソイカウボーイを離れたくて早足で歩いた。来た時は興奮を誘ったネオンも女達も音楽も、今は僕を不快にさせる。
タクシーを捕まえ、いつもはする値段交渉もなしにカオサンへ行ってくれと伝えた。無愛想な運転手が頷き、車は走り出した。
頭の中で自己否定の言葉が駆け巡る。
わざわざ海外まで来て何をしているんだ?たった一人で。金を払わなきゃ女も抱けないしみったれが。周りは進んでいるのに僕は同じところを行ったり来たり。
今まで誰かを本当に愛した事も愛された事も無いじゃないか。
孤独な旅人を気取る1人ぼっちの色情狂。
金で買うセックスは自尊心を傷つけ、愛のないセックスは虚しさを連れてくる。
車窓から眺める夜のバンコク。知り合いはいない。今夜はどうあがいたって、この空虚と孤独と過ごすしか無いらしい。
カーステレオからラジオが流れている。DJが曲を紹介する。
またこの曲か、、くる時に車内で流れていたあの曲がまたかかった。
雨が降ってきた。フロントガラスを雨が打ち、規則的に動くワイパーの向こうにバンコクの夜の喧噪が見える。ラジオから流れるあの曲が妙にセンチメンタルな気分を誘う。
くる時は何も感じなかったのに。
僕はあのタクシー運転手の言葉を思い出していた。
「ある女が何年も片思いしていた男とやっと付き合える事になったんだ。でもその男はすぐに死んでしまう。それでも女は男を愛し続ける、これはそんな歌だ。最高だろ?」
僕はイヤホンを耳にはめて目を閉じた。
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