11/25/2015
広い空と国際交流
バンコク最終日のアシッドトリップの興奮冷め止まぬまま、9月4日、朝7時、僕はオーストラリアのゴールドコーストに到着した。到着ゲートを通り、預けた荷物を待っていると、周りには様々な人種の人間達が行き来している。オーストラリアは移民の国だ。
各国からワーキングホリデーをしに若者達が集まって来ている。僕がここに来た目的は今後の旅の資金を稼ぐ事、強烈な経験を積んで表現をする事だ。
オーストラリアは労働に対する賃金が高い事で有名だし、これだけの人種が入り乱れている国ならば僕の目的にはうってつけだ。
希望と少しの不安を抱えて空港の外に出ると、今まで見た中で一番広い空が広がっていた。何処までも続いている青くて広い空。さわやかな気候と行き交う異国の人達が僕の気分を高揚させる。
まずは街に出ないといけない。僕は空港から出ているバスでゴールドコーストの中心地、サーファーズパラダイスに向かった。
車内は僕と白人女性の二人組だけだった。お互い大きなバックパックを背負っている。
同類のシンパシーか、彼女達が僕に微笑んできた。
「あなたもワーホリ?私たちはスウェーデンから来たの。オーストラリアってとっても気持ちいいわね!」
僕らは自己紹介しあい、今から始まるこの国での生活への希望を共有した。
昨日までいたバンコクとは全く違う町並みが広がり、車窓からは海が見える、僕の鼻を塩の匂いがかすめる。視界の奥の方には高層ビルが建ち並んでいて、まるでロサンゼルスみたいだ。
世界はこんなにも広いじゃないか。
僕が知らない事、知るべき事はまだまだある。それだけで生きていく理由には十分だ。
3人で談笑しているとバスが止まり、最終地点だと告げられた。
ここからはトラム(路面電車)に乗って街の中心まで行く。彼女達にどうするのか訪ねると、宿を予約しているらしく、全く予定の無かった僕も着いていく事にした。
サーファーズパラダイスの駅で降り、3人で宿に向かった。僕らが向かった宿は街の中心にあるバックパッカー(ドミトリースタイルの安宿)で、僕と同じ様な格好でバックパックを背負った連中が受付をしている。当たり前だが部屋は男女別で、ここで彼女達とはお別れだ。再会を約束して彼女達と別れ、僕は教えられた部屋に向かった。
部屋のドアを開けると爆音でヒップホップがかかっていて、上半身裸の白人の男がビールを飲みながらピザをほうばっていた。狭い部屋に大きな二段ベットが二つ、窓の向こうにはサーファーズパラダイスの街が見える。まるで映画を見ている様な光景に見入っていると室内に居た男が話しかけてきた。
「よぉ、お前もこの部屋か?俺も今着いたばっかなんだ。俺はルーク、ロンドン出身だ。お前はジャパンだろ?俺はアジア人の顔の違いを分かってるんだ。お前はどう見てもジャパンだ。てゆうかこのピザめちゃくちゃ上手いぜ。食うか?」
ルークは僕のイメージするロンドンボーイそのままの奴で、早口でまくしたてる様に話し、僕が話を理解しているかなんておかまいなしにどんどん話をしてくる。都会っぽい洗練された空気を持っているのに、なぜかスーツケースを2つ持っていて、片方にはスニーカーが10足ほどパンパンに詰め込まれていた。
「俺は靴がめちゃくちゃ好きなんだ。だって小さい車みたいだろ?毎日気分で靴を変えたいんだよ。今日はベンツ、明日はフェラーリみたいな感じでさ。あー、そうだ、今日夜このバッパーの奴らでBBQやるから暇なら来いよ?女もいっぱい来るから。」
こいつには人見知りって概念がないのか?そう思いながらも、初対面でこれだけ砕けた対応をされると僕も気を使わなくて済むし、ルークが同室で良かったと思った。
二人でビールを飲みながら話していると、部屋のドアが開き、白人とアジア人の二人が入ってきた。
ビールを飲んでいた事もあり、少しだけ心の壁が薄くなっていた僕は陽気に彼らと挨拶を交わした。ルークは僕が来たときと全く同じ様子で、またアジア人の顔を見分けられる事を誇らしげに話した。
白人の方はカナダ出身で、チャンスという縁起のいい名前の男だった。岩の様な大きな体、それに似つかわしく無い大きな目が印象的で、優しそうな雰囲気がにじみ出ている。
アジア人の方は韓国出身で名前はミンソク、真面目そうな見た目で、とても幼く見える、多分僕よりかなり若そうだ。出身地を聞かれると、何処だと思う?と聞き返すのが印象的だった。
「よし、これで今日のこの部屋のメンバーはそろったみたいだな。とりあえず一期一会に乾杯しようぜ。」
ルークは早くも僕らのムードメーカーになっていた。僕らはビールを飲みながら、何故オーストラリアに来たのかとか、それぞれの国についてとか、他愛も無い話で盛り上がった。ルークとチャンスは英語がネイティブだし、ミンソクは一年半オーストラリアにいるせいでかなり英語を身につけている。彼らの会話はとても早く、僕は五割も理解できなかった。
一時間ほど経った頃、用事があると言ってルークが出かけていった。
残った僕ら三人は街を見て回る事にした。観光地だけあって街は人で溢れかえっていて、名前のとうりサーフボードやスケボーを抱えた若者達がたくさん居る。
三人で海に向かった。白い砂浜に青い海、広い空、僕は赤道を超え外国にやって来たんだ。そしてこれからしばらくここで生活していく。見慣れない景色が何度も僕にそれを意識させる。
「ついにオーストラリアに来ちゃったな。俺は国でやってた仕事に嫌気がさしちゃって逃げる様に出てきたんだよ。ここでしばらくゆっくり生活して、自分が何がしたいのか考えようと思っているんだ。」
チャンスが大きな目を細めながらつぶやく様に話した。
ミンソクが微笑みながら相づちを打っている。
僕らはほとんど言葉を発さず、たまに誰かがぼそっとつぶやく事に耳を傾け、ひたすらに海を見ていた。日が沈み、僕らは部屋に帰った。
部屋でだらだら過ごしていると、ほとんど話さなかったミンソクがクラブに行ってみたいと言い出した。彼はまだ一度もクラブに行った事がないらしい。どんなところか見てみたい、ミンソクの目は好奇心に満ちていた。
ルークに誘われていた事も思い出したけど、オーストラリア初日の夜にクラブで遊ぶのも悪く無いと思い、三人でクラブに行く事にした。
僕らは街で一番大きなクラブに向かった。早い時間にも関わらず、エントランスには数十人が並んでいた。セキュリティーにパスポートを提示し、中に入ると、数年前に流行った曲がかかっていて、人でパンパンのフロアは大盛り上がりしていた。
六本木にいる外国人達みたいだ。彼らは大きな音ならなんでもいいんだろうか?
隣を見るとミンソクが緊張した様子で熱狂しているフロアを見つめている。
僕は二人に声をかけ、バーカウンターで酒を買った。せっかくのオーストラリア初日の夜をつまらない思い出で飾る訳にはいかない、そう思った僕はがんがん酒を飲んだ。
チャンスもミンソクも同じ様に感じたのかハイペースで飲んでいる。
こういう時は無理矢理にでも飲んで、出来るだけ楽しんで帰るのがベストだ。僕はフロアで踊り狂った。
チャンスは早くも泥酔していて、片っ端から女に声をかけている。
ミンソクは未だに緊張した様子で、フロアの壁に寄りかかって携帯の画面を見つめていた。僕はミンソクに声をかけ、なんでも良いから音楽に乗って、とりあえず楽しむ様に伝えた。
二時間ほど経ち、ずっと踊っていた僕は汗まみれだった。いつの間にかはぐれた二人を捜すと、チャンスはまだ女を捕まえる事が出来ず、声をかけては逃げられるのを繰り返していた。ミンソクは何処だろうか?
クラブ内を見渡して彼を捜すと、お立ち台で頭を振り乱して狂った様に踊っているミンソクを見つけた。
「ありがとうエソン、君のアドバイスを聞いてから勇気を出して踊ってみたらめちゃくちゃ楽しいよ。クラブがこんなに楽しいとは思わなかったよ。」
とにかく彼が楽しそうで良かった。
僕はもう相当に酔っていた。頭が重く、視界がぼやけている。時間は三時を廻っていた。
僕は二人に先に帰る事を伝え、一人宿に向かった。
千鳥足でなんとか部屋にたどり着き、ドアを開けると、ベッドがきしむ音が聞こえた。
真っ暗な部屋の中に目を凝らすと、ベッドの上でルークが腰を振っていた。
ルークが僕に気づき振り返った。
「あぁ、帰って来たのか、朝まで帰らないと思ってたよ。悪いな、彼女はジェシカだ。」
ルークの下で裸の女が僕に笑顔を向けている。今の今までセックスしていた奴が初対面の人間にこんな笑顔を向けられるのか?こいつらの反応は全てが間違っている。そう思ったけど泥酔していた僕は今すぐに眠りたかった。ルークに寝る事を伝え、自分のベッドで横になった。目をつぶり、夢の世界に向かおうとすると、ルークが話しかけて来た。
「エソン!お前も来いよ。三人で楽しもうぜ。俺はイギリス、彼女はアメリカ、お前はジャパン、国際交流は平和の第一歩だろ?こういう所から世界は変わっていくんだよ!」
ルークは本気だった。ジェシカも変わらぬ笑顔で微笑んでいる。
僕は笑いながら中指を立て、イヤホンを耳にはめて目をつむった。
世界には色んな奴が居る。僕は一体どんな奴なんだろうか?
刺激的なオーストラリア初日は視界の端にセックスのシルエットを感じながら終わっていった。
Subscribe to:
Post Comments
(
Atom
)



No comments :
Post a Comment